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教育実習のこと



数学セミナー,1998年7月号

黒木 先月は教員免許の改訂の話で,教科専門科目が軽くなり,教
職科目が重くなることの問題点を話し合いました。今度の改訂では
教育実習の期間が長くなるということも大きな変更点です。これは
教員養成に限らず,最近では教育学部以外でもインターンシップの
導入ということが話題になっていて,その同じ考え方が表われてい
るだけだとも言えますが。
蟹江 中学・高校の教育実習が2週間から4週間になるということ
には,専門学部の方の反撥は大きいみたいですね。じつは,この3
月に,数学者の有志が集まって,数学教育を考えるワークショップ
が城崎で開かれたんです。2年前にも熱海で開かれましたが,その
続きですね。議論は主として,指導要領の改訂を巡るものだったの
ですが,実習期間の延長の問題も話し合われて,そこでは非常に強
い懸念が示されました。
 数学教育について真剣に心配する人たちが数学者の中にも増えて
きています。実習期間の延長に関しては,それに対応して,大学の
他の講義などの時間割を組むことができないという発言がありまし
た。彼は教科に優秀な教師が必要だということではなかったのかと
怒っていました。先輩でもある彼の,数学一辺倒だった昔を知って
いる僕としてはちょっと不思議な気持ちになりました。彼に言った
ら,たぶん同じことを僕に言うかも知れませんね。
 しかし,言いたいことは,それ程にまで教育の水準低下の問題が
広がっているということです。そういう人達の心配や努力を無にし
てしまう改訂を,平然としてしまう文部省の・・・
中馬 まあまあ,初めから怒っていると身が持ちませんよ。
 教育学部の目的は教員養成ですから,教育実習は重要であると思
います。実習校を確保したり,実習校との協議,また実習期間中は
学部の講義・行事の停止,事前・事後指導の徹底など,経常的な努
力がなされています。また,すべての学生の実習での授業を大学の
先生が視察に行き,学生の指導や実習校の先生との意見の交換もし
ています。
31 教育学部以外では学生の出身校で実習をやるという「母校実習」
とか「ふるさと実習」というのをよく耳にしますし,実習の最中に
実習生の大学の先生が実習校に出向いたり,実習の事後指導をする
ということはあまり聞きません。
黒木 実習期間は,教育学部とそれ以外の学部で違いがあってもい
いと思います。むしろ教育学部では教育実習は4週間より短くても
いいのではないでしょうか。教育学部では附属学校に授業を見に行
ったり(観察参加),附属学校の研究大会に参加したりと,実習以外
に現場とのつながりは日常的ですからね。また,大学では,附属学
校の先生と共同で行う講義もあるくらいです。
蟹江 大学によって,だいぶ違うこともあるようだけどね。
黒木 実習期間の延長によって専門学部での教員免許が取り難くな
るというのが理由であれば,それには賛成できませんね。教育の現
場と教師志望の学生との関わりが実習しかないのなら,2週間とい
う期間が長いとは思えません。たとえばドイツでは,教師になるた
めの長い見習いの期間があると聞いていますし,日本のように2週
間だけで,いきなりプロの教師になるというのはむしろ問題じゃな
いでしょうか。
蟹江 でも,専門学部の立場も分かるけどね。実習期間を特定の時
期に集中できないわけで,大学の講義を一定期間空けることもでき
ないだろうし,実習の都合で随時講義を休んでいいなんてことでは,
きちんと学問するように,とは学生に言えないし.....
中馬 それはむしろ専門学部で教育実習をどのように位置づけるか
という問題ではないでしょうか。教育学部では,小学校と中学校の
免許を取得する学生のために,通常は4週間と2週間の計6週間も
の実習期間のやりくりをしています。岐阜大は,4週間と3週間の
7週間ですが。実習以外のカリキュラムも専門学部に比べてかなり
過密なので,時間の確保はたしかに頭の痛い問題ですが,実習の重
要性からその工夫と努力をしています。実習に行くことで,教師へ
の適性を自分で判断できるという意義も大きいと思います。2週間
くらいの実習では感じたことを大事に見つめる暇はないでしょう。
 ところで岐阜大の場合,市内の4つの実習協力小学校と附属小学
校,5つの実習協力中学校と附属中学校があり,学生全員(340名)
の実習をお願いしてきました。これは実習校と学生を送り出す側と
の信頼関係がなくてはできません。
黒木 中馬さんは現在附属のカリキュラム開発研究センターの所長
さんですね。どこの教育学部にもこのようなセンターが附属してい
ます。名称や内容はまちまちで,地域の教育現場との共同研究,情
報教育に関わる教育や研究をしたり,カウンセリングなどの臨床的
な教育や研究にシフトしたところもあります。福井のものは三重と
同じ「教育実践研究指導センター」という名称ですが,教育実習の
事前指導の先駆的な実践で,福井大学方式として注目をされたこと
があります。附属のセンターが教育実習の一部を取り込むというの
は一つの見識だと思っています。
蟹江 黒木さんも10年くらい前にセンター長だったから詳しいんだ
よね。学生10人の小グループを大学教員一人が受け持ち,学生に先
生役と生徒役の役割を決めた模擬授業をやらせて,ビデオに撮り,
授業の内容の評価も含んだ講評を学生同士で行い,それを改善しな
がら授業実践や技術やその姿勢を学ぶというのだったよね。そのよ
81うな事前指導を,実習前に何週間もかけてやるっていう,まあ,そ
こまで徹底してやるんなら,意味があるよね。今の学生はプレゼン
スが下手だから,余裕があるのなら,絶対にやった方がいいね。
中馬 センターの努力だけというわけじゃないのですが,岐阜大学
では,テレビ電話会議システムなどで遠隔地と大学を結んで,たと
えば高山で教師を勤めながら,大学院に通うという構想がスタート
します。今後は,実習についても大学の先生が出向くのではなく,
これを利用した双方向的指導のあり方が考えられますし,これであ
れば専門学部でも実行可能かもしれません。
黒木 実践ということで教育実習を重視するのなら,制度的な受け
皿としての機能は重要だと思います。だから,教育実習を本格的に
やるのなら,各県にある教育学部のセンターを,他大学や他学部の
教員志望の学生に対しても開放するといったあり方を考えてもいい
と思うわけです。そのために,文部省はセンターの拡充や大学教員
配置の予算措置をし,県は教育実習校の確保の協力やそのための予
算措置について考えてくれたらと思います。
蟹江 専門学部が専門性に特化しているのは当然のことで,だから,
教員養成的な部分は教育学部にある程度任せて,先生になりたい学
生は教育学部に半年所属するとか,卒業研究だけ教育学部で受ける
とかするのもいいかもしれない。アメリカの制度みたいに,卒業し
100たあとで,教育学部の専攻科みたいなもので1年程度修行するって
いうのもどうかな。
黒木 ただ,どちらにしても,単位互換的な制度だけで、担当でき
る教員がいない分を,他大学の単位を取らせればいいという安易な
ことじゃあダメで,専門学部の学生の教育学部への内地留学みたい
な制度が必要じゃないかな。
 教育学部のポテンシャルや雰囲気を肌で感じるためにもね。
中馬 そうですね。たとえば,教科の専門と教え方の技術を融合さ
せることなどもあると思います。専門学部ではこのような研究や教
育はほとんどしないけれど,先生になるにはそれが必要なわけです
し,実際先生をされていれば日常的に必要なことです。TOSMはその
ようなことを学生や先生方と協力してやる研究会です。昨年の夏に
も福井大学で第3回目のシンポジウムをやり40名の参加がありま
した。今年は,8月9日に第4回のシンポジウムを岐阜大学で開き
114ますが,ぜひ,多くの先生方に参加して欲しいですね。