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教師のプロの作り方



数学セミナー,1998年4月号

01 黒木 カニさん元気?改革・改革で忙しいね。こちらはこの改革の
嵐に吹き飛ばされないように、連日、会議と書類書きで頑張ってい
ます。事務の人にも同情されて、会議専用のノートパソコンを買っ
てもらいました。
 ところで、また雑用を増やしたんだって...。
蟹江 人聞きがわるいな。雑用じゃなくて、インターネットで教育
を語るというまともな仕事さ。外交係りを信用しなさいよ。
中馬 僕もe-mailはできるから、忙しいけど、頑張りましょう。
 
蟹江 僕ら3人とも受けた教育は数学者養成用だったけど、数学者
として教員養成の教育学部に勤めていて、小・中・高校の算数・数
11学の教師を育成してきているわけです。数年前からトスム(TOSM,
Teaching Of School Mathematics)というグループを作って、算数・
数学教育だけでなく、教育問題全般に関心を持ち続けてきたと思っ
ています。
 この頃、教育改革の論議が盛んで、いろいろ言う人も多いけど、
聴いていると腹が立ってきます。現実を踏まえない、傍観者の発言
なんだな。文部省や学校は何もしてない、と言ってる大学の教官を
見ると、どこの大学?って訊きたくなる。文部省は矢継ぎ早に改革
をしています。やっていないんじゃなくて、やりすぎなんだ。無原
則というか、哲学が感じられない。圧力をかける政治家も事態が分
21かっているわけじゃないから、その場しのぎの矛盾した政策になっ
て跳ね返ってくる。悪の根源は大学入試で、だから大学のせいで教
育がゆがむだのと言われながら、実際はほとんどの矛盾を大学が吸
収して、教育システムの形を保ってるんだよね。それをさ...
中馬 まま、その辺で。
 岐阜大学の中馬です。「ちゅうまん」と読みます。高校の教師を
振り出しに教職歴34年、岐阜大学に赴任して22年ほどになります。
最近はローガイと言われないようにしています。
蟹江 (ごめん。落ち着くよ。)
 しばらくは、教員養成という立場から、教育問題の過去・現在・
31未来を考えます。最初は、教育学部での教員養成システムの話を
します。黒木さんの言っていた教育学部改革の嵐は、教育学部だけ
に留まらない大変な問題です。そうした問題を、日本全体の教育と
いう視点で話し合っていきましょう。
中馬 では私から。
 教育学部では小学校だけでなく中学・高校の教師の養成も行いま
す。ここで学ぶ数学が高校までの内容だと思う人もいるようですが、
とんでもない話ですね。そんな数学自体の勉強以外に、算数・数学
の指導法もしっかり学んでいるのです。
 岐阜では、県が教員には小・中一種免許の取得を要望しています。
41事実、小・中で人事の交流がさかんに行われています。岐阜大学で
は、小・中の課程はありますが入学時から区別なしです。必然的に
教職関係の履修すべき単位が多くなるのです。実習が小で4週間、
中で3週間、また実習の前後には1週間ずつの事前・事後指導、他
にも僻地・遠隔地での地方実習等です。小学校の免許取得には数・
国・理・社など8つの教科専門と教育法の単位がそれぞれ要ります。
 小学校での教員配置も、各教科の専門家が学校・学年単位でうま
く配分されるように考えられています。そして各先生が自分の専門
を他教科の先生に指導する研究会が毎週のように開かれています。
教師はお互いに協力しあって勉強しています。そこに教育学部での
51専門教育が生きているのです。
 
蟹江 大学によって多少は違うけど、教育学部の学生はほとんど、
小・中両方の免許を取得して卒業してる。小学校の内容だって教え
るとなればやさしくないし、ある程度専門的に勉強しないと無理じ
ゃないかな。中学校の教師でも、小学校で何をどう教えているかは
やはり知っているべきだし。
 それでも「教育学部以外でも教員は作れるし、その方がいいのだ」
という人がいるんだね。
 
黒木 福井大学の黒木です。私もついでに言えば、「くろぎ」と読
みます。私の育った九州の宮崎では多い姓です。名古屋大学の理学
61部につとめ、福井の教育学部にきて、もう長くなりました。教育現
場での研究会には毎年つきあっています。数学者よりも教師とのつ
きあいが多いですね。
 蟹江くんの話だけど、要は、教員を養成することの中身の問題で
しょうね。免許取得の違いを見れば分かりやすいでしょう。
 教職関係の必要な単位をとれば、教育学部でなくても教員免許は
取れます。高校教員はこれが普通のコースです。これがいい意味で
機能していた時代もありましたが、高校全入に近い今日ではどうで
しょう。教職関係の科目は、教員養成のプログラムの中で初めて意
味があるんですよね。また,実践的な力量形成といった面ではかな
71り差があります。教育学部なら、附属学校の教員と協力して、教育
実習に行く前と後の指導を系統的にやっています。私も事前の模擬
授業を担当してますよ。今の学生をみていると、こういうことは必
要だという気がしますね。
 また、「専門学部の出身者の方が教育学部出身者よりいい」とい
う言い方には、誤解があると思います。専門教科に対する広さや深
さという点で比較されたり、出身学部の気風の違いを教師としての
力量の違いとして受けとられかねない言い方です。目的に対してき
ちんとしつけられたか、自由放任で育ったかの違いからくる気風の
違いは確かにありますけど。両学部に身を置いた者からみて教育学
81部の学生は真面目すぎますが、中馬さんの言うようにカリキュラム
が盛りだくさんだから仕方ないかな。真面目さの方向性も問題なん
ですけどね。
 専門学部出身者は、教科の専門性において1日の長があるのは当
たり前でしょう。なければ、むしろおかしいですよ。でも、数学の
理解に大きな差があるかどうか、一概には言えません。
蟹江 夢破れた専門出身者と、志を遂げた教育出身者をくらべてる
の?なりたいと思ってなった高校教師も多いんだよ。
黒木 また、地域性が強いということも教員養成の特徴ですね。
 3人とも理学部のない大学の教育学部にいるけど、高校の教師に
91なろうとして入学してくる者がいます。また、県内に残りたいとい
う理由から、レベルの高い学生も来ます。
蟹江 地域によってかなり違うことがあるよね。三重は、名古屋に
近いこともあって、県内出身者は半分くらいだけど。
中馬 岐阜は、非常に地域性が高いですが。
黒木 本当に、いろいろですね。受け入れ側のスタッフのほうは、
若い数学者が地方大学にもくるようになって、質的な変化もあるし
ね。安易な比較はできませんよ。
101 今日の教育状況を見たときに、中学・高校でも教育学部の出身者
の役割は大きいですよ。たとえば、教員の資質という点で、教材研
究や生徒指導などをあたりまえにこなす姿勢が身についているし。
もちろん、卒業後にどれくらい成長するかにもよりますが....。
 まあ、戦後50年近い国立大学の教員養成で反省点がないとは言わ
ないが、その成果を過小評価するのは問題だと思います。
蟹江 理学部から教育学部にきて、変わったことはある?
黒木 教育に気を使うようにはなりましたね。「数学の教員になる
のだから、大学において数学嫌いにしてはいけない」という点です。
つまり,専門の数学の魅力を伝えたい、と強く思いますね。そのた
めに,小・中学校で教える内容の数学的な背景とか、数学の精神・
111思想とかを織り交ぜて、納得させる講義にせざるを得ないし。数学
者から数学の語り部への変身でしたね。
蟹江 カッコいいじゃない。
 僕は自己紹介をしてませんでしたね。余白がないので、TOSMのホ
ームページ(http://www.com.mie-u.ac.jp/~kanie/tosm/)で見てく
ださい。